1020年 初夏

・1020年5月 三代目当主 秋陽の手記


由梨の、短命の呪いが発動した

「親父や初代は具合が悪くなり始めてから何日くらいで起き上がれなくなった?それから、何日くらいで…」と嫌なことばかり考えちまう


いつでも俺のやることを見て、後からついてきてたじゃないか

どうして、こんな時だけ 先なんだ
畜生…

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どうしようもない愚痴を書き散らかしてから数日が経った

なんとか短命の呪いに抵抗する方法はないか、回避する方法はないかと手記を片っ端から漁ったが何も見つからず悶々とする俺を「しっかりなさって!」と叱咤したのは八恵だった


その肩が震えてるのは、これから交神に向かう緊張のせいなんかじゃない

由梨でもう三人目だ あいつの命が残り少ないってこと、八恵だって分からないわけがない


龍月は「自分の役目はこっちです」と朱ノ首輪を嵌めて見せて、頷いている

「今は、自分ができることを精一杯やるだけですから」と下手くそに笑ってた
二人の方がよほどしっかりしてるじゃないか

自分が情けねえ

・1020年6月 討伐隊長 八恵の手記



母のことは当主様達に任せ、弟と2人白骨城に到着しました



「妹の心配をしすぎて上の空の方など足手まといになります!家に残って下さい」と当主様には啖呵を切って参りました

母の側に付いていて欲しいというのが本音ですが、正直には申しませんでした
龍月はわたくしの本音に気づいているようでしたけれど


そうそう、当主様はきっと後でこれを読むでしょうから書いておきますけど

当主様ご自身もお体がご不調なこと、わたくし達とうに気づいております
不調な時は後進に仕事を任せ、潔く養生に専念することも立派な当主の務めかと思われます


龍月は先程から私の書付を横から読みながら「白骨城の総大将なんか2人でも楽勝でしたって笑って、当主様と母上を安心させてやろう」などと生意気を言ってきます



まったく、小さな頃は気弱な弟だと思っていたのにいつの間にこんなことを言うようになったのかしら?


楽勝で帰還することなど当然のこと

わたくし達は神の祝福を受けた鬼斬の一族、実桜家の人間なのですから

二人だけでの捨丸戦ですがそこは回避力の高い拳法家二人組。

骨の嵐や通常攻撃など物理攻撃オンリーの前半戦なら、ヒラヒラと躱しつつ着実に火術の併せを叩き込んでフィニッシュです。
混乱術を飛ばしてくる後半戦ではともかく、前半戦の捨丸様は今の戦力ならあんまり脅威じゃないよね。



イツ花さんありがとう!今日は八恵と龍月の慰労会だね!

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